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大阪地方裁判所 平成元年(ワ)2784号 判決 1991年1月31日

原告(反訴被告)

西藤義豊

ほか一名

被告

ほか一名

被告(反訴原告)

四国高速運輸株式会社

主文

一  被告(反訴原告)四国高速運輸株式会社及び被告桑原光生は、各自、原告(反訴被告)らそれぞれに対し、金二五一万七〇五一円及びこれに対する昭和六二年一〇月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)らは、それぞれ被告(反訴原告)四国高速運輸株式会社に対し、金三〇万一五六五円及びこれに対する昭和六二年一〇月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告(反訴被告)らの被告(反訴原告)四国高速運輸株式会社及び被告桑原光生に対するその余の請求及び被告国及び被告中国建設株式会社に対する請求を棄却する。

四  被告(反訴原告)四国高速運輸株式会社のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、本訴反訴を通じ、原告(反訴被告)らに生じた費用の八分の一と被告(反訴原告)四国高速運輸株式会社及び被告桑原光生に生じた費用の四分の一を被告(反訴原告)四国高速運輸株式会社及び被告桑原光生の負担とし、原告(反訴被告)ら、被告(反訴原告)四国高速運輸株式会社及び被告桑原光生に生じたその余の費用と被告国及び被告中国建設株式会社に生じた費用を原告(反訴被告)らの負担とする。

六  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(本訴)

一  請求の趣旨

1 被告らは、各自、原告(反訴被告、以下、本訴及び反訴を通じ単に「原告」という。)らそれぞれに対し、一〇〇〇万円及びこれに対する昭和六二年一〇月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

3 担保を条件とする仮執行の免脱宣言(但し、被告国のみの申立て)

(反訴)

一  請求の趣旨

1 原告らは、被告(反訴原告)四国高速運輸株式会社(以下、本訴及び反訴を通じ単に「被告四国高速」という。)に対し、それぞれ三六万六五五〇円及びこれに対する昭和六二年一〇月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する原告らの答弁

1 被告四国高速の請求を棄却する。

2 訴訟費用は、被告四国高速の負担とする。

第二当事者の主張

一  本訴請求原因

1  事故の発生(以下、「本件事故」という。)

(一) 日時 昭和六二年一〇月二四日午前一時三〇分ころ

(二) 場所 広島県竹原市田万里四八〇番地の二先一般国道二号線道路上(以下、「本件事故現場」という。)

(三) 事故車(一) 大型貨物自動車(徳一一か三三一五号、以下、「桑原車」という。)

右運転者 被告桑原光生(以下、「被告桑原」という。)

(四) 事故車(二) 普通乗用自動車(大阪五四つ六四三二号、以下、「西藤車」という。)

右運転者 訴外西藤隆康(以下、「隆康」という。)

(五) 態様 本件事故現場を東進中の西藤車が、左カーブを曲がり切れずに対向車線に進入し、対向車線を西進中の桑原車に衝突した。

(六) 結果 本件事故により、隆康が脳挫傷等の傷害を負い死亡した。

2  被告らの責任

(一) 被告中国建設株式会社について

被告中国建設株式会社(以下、「被告中国建設」という。)は、広島国道工事事務所から、本件事故現場付近の道路(以下、「本件道路」という。)の改良工事(以下、「本件工事」という。)を請負い、本件道路を占有していたものであるところ、本件道路は、もともとは直線道路であつたものを本件工事のための迂回道路として西から東に向かつて進行する場合に右から左にS字形に大きくカーブ(以下、「本件カーブ」という。)するように設置されたものであるが、本件道路の設置又は保存に次のとおりの瑕疵があり、そのために本件工事以前に何度も本件事故現場を通つたことがあつて本件道路が従前どおり直線道路であると思つて走行していた隆康が本件カーブに気付くのが遅れ、カーブを曲がり切れずに対向車線に進入し、本件事故が発生した。

(1) 本件事故現場付近は、農家が散在するだけで夜間は真つ暗闇になる場所であるところ、本件工事現場の西側のガソリンスタンドが夜間、煌々と照明をつけているため、その後方にある本件工事現場は、西方から東進してくる車両からは全く見えず、本件事故現場が右のような状況にあつたにもかかわらず、本件工事の存在を示すために設置されていた赤色回転灯は本件事故当時点灯していなかつた。もつとも、本件事故当時、本件カーブに沿つてピカピカチユーブが設置されていたが、前記のとおり工事現場の手前に夜間煌々と照明をつけているガソリンスタンドや被告中国建設の工事事務所があるため、これらにまどわされたり、遮られたりして東進してくる車両に対しては機能しておらず、本件工事や本件カーブの存在を明示する有効な標識、照明設備等は存在しなかつた。

(2) 本件事故現場の西側手前には、本件工事の存在を警告する道路標識(道路工事中の警戒標識)が設置されていたが、本件工事以前から本件事故現場の西側約二〇〇メートルまでは片側二車線で、それから東側は一車線に幅員が減少し、右幅員減少を警告する道路標識(幅員減少の警戒標識)が、幅員減少地点の四〇〇メートル以上も西側から幾つも設置されており、それに混じつて道路工事中の警戒標識が設置されていたため、道路工事中の警戒標識を幅員減少の警戒標識と錯覚させることになり、道路工事中の警戒標識は有効に機能していなかつた。

(3) 本件事故現場の西側約三〇〇メートルの東行車線には、「安全速度三〇キロメートル・スピード落とせ。」と記載した標識が設置されていたが、前記幅員減少地点付近の信号機の上に、「ここから五〇キロメートル」と記載した道路標識が設置されていたため、三〇キロメートルの速度制限が解除されたものと勘違いしやすく、有効な安全速度の警告がなされていなかつた。

(4) 本件道路は本件カーブ以外はほぼ直線であつたから、本件道路の東行車線を東進中の隆康は、本来であれば西行車線を対向してくる桑原車を事前に発見できたはずであつたが、本件事故当時は、本件カーブの北側の本件工事現場に大型のシヨベルカーが放置されていたため、本件道路は進行してくる対向車を発見し難い状況にあつた。

(5) 被告中国建設は、本件工事を行うに際して、竹原警察署に道路使用許可の申請手続きを行い、<1>工事現場の表示を明確に行うこと、<2>工事区間を明確にするため防護柵、縄張り等を厳重に施し、夜間は赤色または黄色の灯火を一定区間に点灯し、事故の防止に努めること、<3>危険が伴う工事である旨の看板を掲出することを条件として許可されていたにもかかわらず、これらを遵守していなかつた。

(6) 被告中国建設は、本件工事を行うに際して、広島国道工事事務所から指定されたとおりの道路標識を設置していなかつた。

(7) 本件事故現場の西側の本件道路東存車線は下り坂でブレーキを踏まないで走行するだけで八〇キロメートル程度の速度が出る場所であるのであるから、そのような速度でも回り切れるような緩やかなカーブにすべきであつたのにこれをしなかつた。

以上の次第で、本件事故は、土地の工作物である本件道路の設置又は保存に瑕疵があつたことによつて発生したことが明らかであるから、被告中国建設は、民法七一七条一項本文に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。

(二) 被告国

被告国は、本件道路の管理者であるところ、本件道路の設置又は保存には、前記のとおりの瑕疵があつて道路として通常有すべき安全性を欠いていたものであり、右瑕疵によつて本件事故が発生したものであるから、被告国は、国家賠償法二条一項に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。

(三) 被告桑原

被告桑原は、桑原車を運転して本件道路の西行車線を走行していたものであるが、本件事故現場には安全速度時速三〇キロメートルと表示された標識が設置されており、かつ本件事故現場の約六〇メートル以上も手前で西藤車の異常に気付くことができたにもかかわらず、漫然と時速五〇キロメートルの高速度で走行し、西藤車の異常事態を発見し、急制動の措置を講じるのが遅れた過失により本件事故を発生させたから、民法七〇九条に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。

(四) 被告四国高速について

被告四国高速は、本件事故当時、桑原車を保有し、これを自己のために運行の用に供していたものであり、また、被告桑原を雇用し、同被告を自己の業務の執行にあたらせていたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下、「自賠法」という。)三条及び民法七一五条に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。

3  損害

(一) 隆康の損害(死亡による逸失利益) 二八七四万一三九三円

隆康は、昭和四〇年六月一二日生まれ(本件事故当時二二歳)の男子であつて、本件事故当時、近畿大学工学部建築科四年生に在学中であり、既に訴外朝日住建株式会社に就職が内定していたから、本件事故に遭わなければ、大学卒業後六七歳まで四五年間は就労可能であり、その間少なくとも毎年二四七万四四〇〇円(昭和六一年賃金センサス第一巻第一表産業計、企業規摸計、旧大・新大卒の二〇ないし二四歳の男子労働者の平均年収額)を下らない収入を得ることができるはずであつた。そこで、右収入を基礎に生活費として右収入の五〇パーセントを控除したうえ、ホフマン式計算方法により年五分の割合による中間利息を控除して同人の逸失利益の本件事故当時の現価を計算すると次のとおり二八七四万一三九三円となる。

(算式)

2,474,400円×0.5×23.231=28,741,393円

(二) 権利の承継

原告西藤義豊(以下、「原告義豊」という。)は、隆康の父であり、原告西藤美智子(以下、「原告美智子」と言う。)は、隆康の母であるところ、原告らは隆康の死亡に伴い、同人の被告らに対する右(一)の損害賠償請求権を法定相続分に従つて承継した。

(三) 原告らの損害

(1) 慰謝料 各八〇〇万円

本件事故により、長男である隆康を失つた原告らの精神的苦痛を慰謝するには、原告それぞれにつき八〇〇万円が相当である。

(2) 葬儀費用 各一二〇万円

原告らは、隆康の葬儀のために各一二〇万円を支出した。

(3) 弁護士費用 各二二五万円

よつて、原告らは、それぞれ被告ら各自に対し、本件事故に基づく損害賠償として、前記損害金二五八二万〇六九六円の内金一〇〇〇万円及びこれに対する本件事故の日である昭和六二年一〇月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  本訴請求原因に対する認否

1  被告中国建設及び同国

(一) 請求原因1(事故の発生)は認める。

(二) 同2について

(1) (一)について

ア 冒頭の事実のうち、被告中国建設が、広島国道工事事務所から、本件工事を請負い、本件道路を占有していたことは認め、その余は否認する。

イ (1)のうち、本件事故現場付近に農家が散在すること、本件事故現場に赤色回転灯が設置されていたこと、本件事故現場の西側手前にガソリンスタンドがあり、このスタンドが夜間に照明を点灯することは認めるが、その余は否認する。

ウ (2)のうち、本件事故現場の西側に、本件工事の存在を警告する道路標識が設置されていたこと、本件工事以前から本件事故現場の西側約二〇〇メートルまでは片側二車線で、それから東側は一車線に幅員が減少すること、右幅員減少を警告する道路標識が、幅員減少地点の約四〇〇メートル以上西側から幾つも設置されていたことは認めるが、その余は否認する。

エ (3)のうち、本件事故現場の西側約三〇〇メートルの東行車線には本件事故当時、「安全速度三〇キロメートル・スピード落とせ。」と記載した標識が設置されていたこと、右幅員減少地点付近の信号機上に、「ここから五〇キロメートル」と記載した道路標識が設置されていたことは認めるが、その余は否認する。

オ (4)のうち、本件カーブ以外は、本件道路はほぼ直線道路であつたことは認めるが、その余は否認する。

カ (5)のうち、被告中国建設が、本件工事を行うに際して、竹原警察署に道路使用許可の申請手続きを行い、許可を得たことは認めるが、許可条件を遵守していなかつたことは否認する。

キ (6)は否認する。

ク (7)は争う。

(2) (二)のうち、本件事故現場が、被告国の管理下にあつたことは認めるが、その余は否認する(被告国のみ)。

(三) 同3のうち、原告義豊が隆康の父であり、原告美智子が隆康の母であることは認めるが、その余は不知。

2  被告四国高速及び同桑原

(一) 請求原因1(事故の発生)は、認める。

(二) 同2(二)は否認する。

(三) 同2(四)のうち、被告四国高速が桑原車の運行供用者であること及び被告四国高速が同桑原の雇用者であることは認めるが、被告四国高速に責任があることは争う(被告四国高速のみ)。

(四) 同3のうち、原告義豊が隆康の父であり、原告美智子が隆康の母であることは認める。

三  本訴請求原因に対する抗弁

1  免責(被告四国高速のみ)

本件事故は、隆康が、西藤車を運転して、本件道路の東行車線を走行中、本件カーブの存在を見落とし、かつ、安全速度が時速三〇キロメートルとされていた本件事故現場を時速八〇キロメートルの高速度で進行して本件カーブを回り切れずに対向車線に進入したために発生したもので、隆康の一方的過失による事故であり、桑原車の運転者である被告桑原には何らの過失はなく、桑原車には構造上の欠陥も機能の障害もなかつた。

2  過失相殺

仮に、被告らに何らかの責任があるとしても、本件事故発生については、隆康にも1記載のとおりの過失があつたから、相当な過失相殺がなされるべきである。

四  抗弁(三)に対する認否

抗弁事実は否認する。

なお、被告らは本件事故当時の西藤車の速度は時速八〇キロメートルであると主張しているが、西藤車は、本件カーブを回ろうとしてハンドルを急激に切り、西藤車の右後輪が右に振つているため、右後輪が停止していたかどうかは判らないから、右後輪のスリツプ痕を制動痕として、これから西藤車の速度を計算することはできない。

五  反訴請求原因

1  事故の発生

本訴請求原因1(事故の発生)と同じ。

2  隆康の責任

隆康は、西藤車を運転して本件道路の東行車線を走行中、本件カーブの存在を見落とし、かつ、安全速度が三〇キロメートルとされていた本件事故現場を時速八〇キロメートルの高速度で進行し、カーブを回り切れずに対向車線に進入した過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき、本件事故によつて桑原車の所有者である被告四国高速に生じた損害を賠償する義務がある。

3  損害

(一) 車両修理代 三四万四九一〇円

(二) 休車損害 二三万三一九〇円

(三) 荷物運搬代(人件費を含む。) 六万円

(四) 荷物弁償代 九万三〇〇〇円

(五) 通信費 二〇〇〇円

4  義務の承継

原告義豊は、隆康の父であり、原告美智子は、隆康の母であるところ、原告らは隆康の死亡に伴い、同人の被告らに対する右3の損害賠償義務を法定相続分に従つて承継した。

よつて、被告四国高速は、原告らそれぞれに対し、本件事故による損害賠償として、三六万六五五〇円及びこれに対する本件事故の日である昭和六二年一〇月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

六  反訴請求原因に対する認否

1  請求原因1(事故の発生)は、認める。

2  同2は否認する。

3  同3は不知。

七  反訴請求原因に対する抗弁(過失相殺)

被告四国高速の被用者である被告桑原は、桑原車を運転して本件道路の西行車線を走行中、本件事故現場の安全速度は時速三〇キロメートルとされており、かつ本件事故現場の約六〇メートル以上も手前で西藤車の異常に気付くことができたにもかかわらず、漫然と時速五〇キロメートルの高速度で走行し、西藤車の異常事態を発見し、急制動の措置を講じるのが遅れた過失があつたから、被害者側に過失があつたものとして相当程度の過失相殺がなされるべきである。

八  抗弁(七)に対する認否

否認する。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一本訴について

一  請求原因1(事故の発生)は当事者間に争いがない。

二  被告中国建設の責任について

1  成立に争いがない甲第三号証の一、二、第四号証の一ないし三、丙第一号証、第三号証、証人縄田信の証言により真正に成立したと認められる丙第四号証、証人今井康善の証言により真正に成立したと認められる丙第五、第六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる丁第一、第二号証、本件事故現場付近を撮影した写真であることに争いがなく、原告義豊本人尋問の結果によりいずれも同人が撮影し、撮影日が昭和六三年一月三〇日(第一号証、第九号証)及び同六二年一一月一四日(第二ないし第八号証)であると認められる検甲第一ないし第九号証、本件事故現場付近を撮影した写真であることに争いがない検丙第一号証の一ないし一一、一二の一ないし四、一三ないし二四(なお、被告中国建設は、一二の一を除くこれらの写真は本件事故以前に撮影したものであると主張するが、同被告がその撮影日が昭和六二年一〇月上旬であると主張する検丙第一号証の一、二の写真に写つている山の方が前掲検甲第二、第三号証の写真に写つている山よりも紅葉が進んでいること、前掲検甲第八号証の写真に写つている田圃には、細かく刻まれた藁が数箇所にわたり山状に盛りあげて置かれているが、検丙第一号証の二の写真に写つている同じ箇所の田圃では、一面に藁が敷き詰められていること、検丙第一号証の一〇に写つているすすきの穂が開き、枯れている状態は同被告の主張する一〇月上旬のものとは考え難く、その状態はむしろ前掲検甲第三号証に写つているすすきの状態に近いことに、検丙第一号証の各写真は、本件事故現場を西から東へと、東から西へとに順次撮影していつたものがほとんどであるが、同号証の一二の一の昼間の本件事故現場の状況を撮影した写真のみ本件事故後の昭和六二年一一月中旬に撮影した写真を提出していることなど、不自然・不合理な点が多く、これらの点に鑑みると、一二の一を除く検丙第一号証の各写真が同被告の主張するとおり本件事故以前に撮影されたものとは認め難く、むしろ一二の一と同様本件事故後に撮影されたものと認めるのが相当である。)、視線誘導装置、誘導標示板、回転灯を撮影した写真であることに争いのない検丙第二号証の一ないし四、証人縄田信及び同今井康善の各証言、原告義豊本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。

(一) 被告中国建設は、土木工事の設計、施工及び管理等を目的とする会社であるところ、本件事故当時、建設省中国地方建設局広島国道工事事務所から本件道路に横断地下道及び水路BOX等を設置する国道二号線田万里改良工事(本件工事)を請負い、右工事の施工のために延長一〇〇メートル余りの本件事故現場に仮設の迂回道路を敷設していた。そして、そのため本来東西にほぼ直線に走る本件道路が本件事故現場付近において、西から東に向かつて進行した場合、まず右にカーブし、次いで左にカーブしたうえで再度右にカーブし、最大で元の道路の幅員に相当する一〇メートル前後南側に弧状に突出したようになつており、右カーブ(本件カーブ)の内側(北側)が工事現場になり、右工事現場の東側で、本件カーブを西から東に三分の二ほど進行した地点付近には信号機の設置されている横断歩道があつた。

(二) 本件道路は、山裾の農村地帯を東西に走る片側二車線のアスフアルト舗装道路で、本件カーブの部分以外は、見通しのよいほぼ直線の道路であるが、本件カーブの西方約二〇〇メートルの地点から西側は片側二車線になつていて中央分離帯が設置されており、また、本件カーブ付近から西方約五〇〇メートルの間は上り坂(東行車線を東進する場合は下り坂となる。)になつている。なお、本件事故現場付近の本件道路は、車両の最高速度が時速五〇キロメートルに規制されており、本件カーブの約二〇メートル西方の片側二車線から一車線に車線が減少する地点付近から東側は、本件カーブ部分を含めて、追越しのためのはみ出し禁止となつており、黄色のセンターラインが引かれていた。

(三) 本件道路の本件カーブ内における東行車線の幅員は約三・五メートル、西行車線の幅員は約三・四メートルであり、西行車線の外側から約〇・六メートル離れた南側沿い(但し、本件カーブの東端付近二〇ないし三〇メートルは右以上に離れていた。)には、ガードレールが設置されており、右ガードレール上には、夜間、自動車の前照灯の光を反射して自動車の運転者に道路の形状を知らせる視線誘導装置(直径が八・二センチメートルの円形状のもの)が一定の間隔で設置されていた。

また、本件カーブの西側開始地点付近の本件道路の北側の道路脇には仏壇店仏法堂があつて、右仏法堂の敷地の西南角の東行車線沿いには被告中国建設の工事事務所が建てられており、その西側にはガソリンスタンド田万里石油があつた。

(四) 被告中国建設は、本件工事を施行するに当たり現場代理人兼主任(監理)技術者として、その社員である今井康善を指定するとともに、本件道路を通行する車両に対し、本件道路が工事中であつて工事のために迂回道路が敷設され、道路が前記のとおりカーブしていることを警告したり、減速を促したりするための少なくとも次のとおりの標識及び標示板を設置していた。

(1) 東行車線の北側道路脇

<1> 本件カーブの西方約五〇〇メートルの地点

青地に白ペンキで「五〇〇メートル先工事中につき片側通行」と記載した片側通行予告標示板

<2> 同約四五〇メートルの地点

徐行の規制標識

<3> 同約四〇〇メートルの付近

最高速度三〇キロメートルの規制標識類似の標識の上部に「安全速度」と記載した補助標識類似の標示板、下部に区間の開始を示す補助標識及び赤色で「スピード落とせ」と記載した標示板を付加した車両に減速を促すための標識並びに青地に白ペンキで「四〇〇メートル先工事中につき幅員減少」と記載した幅員減少の予告の標示板

<4> 同約三〇〇メートルの付近

<3>と同じ標識並びに道路工事中の警戒標識及び右工事が三〇〇メートル先であることを示す補助標識

<5> 同約二〇〇メートルの地点

前方にカーブがあることを示す警戒標識及びその下部に設置され、白地に赤色で「スピード落とせ」と記載された標示板

<6> 同約一五〇メートルの地点

徐行の規制標識

<7> 同約一〇〇メートルの地点

白地に赤色で大きく道路工事中と記載し、その下方に青色で工事区間、工事期間、施工業者名等を記載した工事標示板

<8> 本件カーブの開始地点(西端)付近

三メートル前後の高い位置に設置された大型の長方形の黄色の矢印で右方向の進行方向を表示した方向指示の補助標識(曲線補助標識)二個、一メートル以下の低い位置に設置された長方形の黄色の板に矢印で右方向の進行方向を記載した方向板三個及び赤色回転灯並びに三メートル余りの高い位置に設置された長方形の板の上部に黄色の三本の矢印で右方向を表示し、その下に道路工事中の警戒標識と徐行の規制標識のマークを並べて記載した誘導標示板(なお、右曲線補助標識、方向板及び誘導標示板は、蛍光塗料等により、夜間自動車の前照灯の光が当たるとこれを反射する機能を有し、前照灯を下向きにした状態でも一〇〇メートル手前から確認可能であるが、本件事故当時赤色回転灯は点灯していなかつた。)

<9> 本件カーブの中央付近

<3>と同じ標識

<10> 本件カーブの終点(東端)付近

西行車線を走行する車両のための<8>と同じような曲線補助標識及び誘導標示板

<11> その他

本件カーブの内側(北側)沿いにバリケードと蛍光塗料の塗られたカラーコーンを連続して置き、右バリケードに透明な赤色の合成樹脂製のパイプ内で夜間豆電球が点灯するピカピカチユーブを取り付けてあり、本件事故当時、右ピカピカチユーブは点灯していた。また、本件カーブの手前の東行車線の路上には、白色ペンキで右にカーブした進行方向を指示する大きな矢印が書かれていた。

(2) 西行車線の南側道路脇

<1> 本件カーブの中央部付近

(1)の<3>と同じ標識

<2> 本件カーブの東方約三〇メートルの地点

(1)の<5>と同じような警戒標識及び標示板

<3> 同約一八〇メートルの地点

(1)の<3>と同じ標識

<4> 同約三二〇メートルの地点

(1)の<7>と同じ標示板

(五) 隆康は、広島の下宿先から大阪市内の自宅へ帰るために西藤車を運転して本件道路の東行車線を走行中、深夜で通行車両が少なく、また、前記のとおり本件カーブの手前が下り坂であつたこともあつて、時速約八〇キロメートルの速度で本件カーブに差しかかつたが、本件工事が着工される以前に何度か本件道路を通行し、本件道路がほぼ直線であつたことを知つていたので、本件道路が以前のとおり直線であると思つて漫然と進行していたために本件カーブに気付くのが遅れ、最初の右へ曲がるカーブは回つたものの、その次の左へ曲がるカーブが回り切れず、車体後部を右に振つた横滑りの状態で対向の西行車線上にはみ出し、右横滑りの状態で約二八メートル進行して前記横断歩道の東方約七メートル付近まで進んだとき、車首を北にして道路との角度が直角近くなつた西藤車の右側面に、西行車線を西進してきた桑原車の正面が衝突し、西藤車は衝突の衝撃で約一・六メートル西側に押し戻されて停止した。

(六) 被告桑原は、西行車線を時速約五〇キロメートルの速度で西進して本件カーブに差しかかり、前記西藤車との衝突地点の手前約三四・一メートルの地点で急ブレーキの音を聞いたが、そのまま進行し、右ブレーキ音を聞いた地点から約一三・八メートル進行した地点で前記のとおり西行車線にはみ出して進行してくる西藤車を認め、急制動の措置を講じたが、間に合わず約二〇・三メートル進行して西藤車に衝突し、さらに約一・六メートル進行して停止した。

(七) 本件事故当時、天候は曇りで路面は乾燥しており、西藤車が進行した西行車線上には西藤車の右後輪によつて印された三五・七メートル、右前輪によつて印された二三・〇メートルの各スリツプ痕が残つており、また桑原車が進行した西行車線上には桑原車の右前輪によつて印された二・〇メートル、左前輪によつて印された二・八メートル、右後輪によつて印された三・一メートル、左後輪によつて印された一一・五メートルの各スリツプ痕が残つていた。

(八) 本件事故後の昭和六二年一一月七日午後六時一五分ころ、大型トレーラーが本件事故現場の東行車線を走行中、本件カーブの最初の右カーブを曲がることができず、本件工事現場に突つ込んで、運転手らが死亡するという事故が発生したが、右事故は、大型トレーラーのブレーキが故障し、制動措置を講じることができなかつたことが原因で発生したものである。

なお、前掲検丙第一号証の一ないし一一、一二の一ないし四、一三ないし二三及び丙第二号証には、右に認定した以外にも本件工事のための標識及び標示板等が設置されていたような写真及び記載があるが、右の検丙第一号各証は本件事故以後に撮影されたものであることは前記のとおりであり、丙第二号証の記載も前掲甲第四号証の三(前掲甲第三号証の一、二、同第四号証の一及び証人今井康善の証言によれば、中国建設が本件工事のため標識及び標示板の設置状況を記載して広島国道工事事務所に提出した図面であることが認められる。)の記載と異なつたところがあるところ、本件事故の発生を契機としてより安全にするために標識等を増設したということも考えられるうえ、警察の実況見分調書に標識が漏れなく記載されているとは限らないにしても、前記写真及び記載は事故直後に実施された警察の実況見分の結果を記載した実況見分調書である前掲丙第一号証の記載及び添付写真と異なつた部分もあるので、前記写真及び記載のうち、前認定の標識等の設置状況と異なる部分は採用することはできない。

また、原告らは西藤車の速度について、隆康が左ハンドルを急激に切り、西藤車の右後輪が右に振つているため、右後輪のスリツプ痕が印されている最初の地点から車輪が停止し手いたかどうかは判らないから、右後輪によるスリツプ痕を制動痕として、これから西藤車の速度を計算することはできないと主張するところ、確かに前認定の事故状況からすれば、制動により車輪が完全に停止してスリツプ痕がつき始めたのでないという可能性もなくはないが、前認定のとおり右後輪によるスリツプ痕が三五・七メートル、右前輪によるスリツプ痕が二三・〇メートル印されており、このようなスリツプ痕が印されたということは、西藤車は右各車輪が回転しない状態で滑走していること示すものであること、乾燥したアスフアルト舗装道路に、スリツプ痕が二三メートル程度印されている場合の車両速度は通常時速七〇キロメートル程度、三五・七メートル程度印されている場合には時速八五キロメートル程度とされていること、及び前認定の桑原車が衝突後に西藤車を押し戻した距離からすると、桑原車の衝突時の速度はさほど早くはなかつたと考えられるのに、西藤車は右後輪が大きく曲がり、キャビン部分は原型がわずかしか残らないでつぶれるほど大破しており(この事実は前掲丙第一号証により認められる。)、衝突時の西藤車の速度はまだかなり早かつたと考えられることなどの点に鑑みると、本件カーブに入る直前の西藤車の速度は少なくとも時速八〇キロメートル程度はあつたと認められるのであり、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。

2  そこで、以上認定の各事実を前提に、被告中国建設の責任について検討する。

(一) 原告らは、隆康が本件カーブの存在に気付くのが遅れたのは、西藤車の進行方向からみて本件工事や本件カーブの存在を明示する有効な標識や照明がなかつたためである旨主張するところ、本件事故当時、本件カーブの開始地点付近に設置された赤色回転灯が点灯していなかつたことは前認定のとおりであるが、右地点付近にはそれ以外にも車両の進行方向を指示する二個の高位置に設置された大型の曲線補助標識、三個の方向指示板及び道路工事中であることを警告し、徐行運転を命ずるとともに車両の進行方向を指示するマークを記載した誘導標示板が設置されており、さらに、本件カーブの内側(北側)に沿つてバリケード、蛍光塗料等の塗られたカラーコーン及び赤色の豆電球が点滅するピカピカチユーブが設置されており、右曲線誘導補助標識、方向指示板及び誘導標示板は、前照灯を下向きにした状態でも一〇〇メートル以上手前から確認可能であつたから(これらの標識等は、蛍光塗料等の使用により、前照灯の光をよく反射するようになつているのであるから、右確認可能距離は道路運送車両の保安基準と矛盾するものではない。)、通行車両の運転者に対して本件工事及び本件カーブの存在を知らせ、相応のブレーキ及びハンドル操作をとるべきことを警告するために必要な標識等は十分に設置されていたということができる。

したがつて、本件事故当時、赤色回転灯が点灯していなかつたからといつて、本件道路が通路として通常有すべき安全性を具備していない瑕疵があつたということはできない。

(二) 原告らは、本件カーブの手前(西側)に煌々と明かりを付けたガソリンスタンドや被告中国建設の工事事務所があつたから、これに遮られて右標識を確認できなかつたと主張し、証人縄田信の証言中にはこれに副う供述部分がある。しかしながら、前掲検甲第一号証、第四号証、同丁第二号証によれば、ガソリンスタンドの強力な照明は、道路から離れた部分を除くと、柱みので支持された高い屋根の天井部分に設置されているうえ、東行車線の北側にはかなり広い路側帯があつてその位置は車両の通行帯からかなり離れているので、右照明や工事事務所が前記標識等と東行車線を進行する車両との中間に位置するようなことはないことが認められ、しかも、前認定のとおり本件カーブはほぼ直線状から右にカーブしており、前記標識等はこれに沿つて設置されているのであるから、東行車線を進行する車両の運転者が前方を見ておりさえすれば当然目に入る位置関係にある。

したがつて、原告らの右主張は理由がない。

(三) 原告らは、本件事故現場の西側手前には、本件工事の存在を警告するために道路工事中の警戒標識が設置されていたが、これに混じつて幅員減少の警戒標識が幾つも設置されていたために、道路工事の警戒標識を幅員減少の警戒標識と錯覚させるもので、有効な警戒標識とはなつていなかつた旨主張するところ、本件道路の幅員減少地点の西方に道路工事中の警戒標識が設置されていたことは前認定のとおりであるが、警戒標識は黄色の菱形の標示板に記載されたマークに意味があり、道路工事中を示すマークと車線減少ないし幅員減少を示すマークは全く異なるものであるから、この点を捕らえて有効な警戒標識の設置がなかつたとはいえず、原告らの右主張も採用できない。

(四) 原告は、本件事故当時、東行車線には、「安全速度三〇キロメートル・スピード落とせ。」と記載した標識が設置されていたが、右設置位置の東方の幅員減少地点付近の信号機上に、「ここから五〇キロメートル」と記載した道路標識が設置されていたため、速度制限が解除されたと勘違いしやすく、有効な安全速度の警告がなされていなかつたとも主張し、幅員減少地点の西側に安全速度が三〇キロメートルであること及び減速指示を表示する標識(前記1(四)(1)<3>の標識)が設置されていたことは前認定のとおりであるが、右標識は安全速度という表示があること自体からも、速度規制を表示するものではなく、被告中国建設が本件工事に際し、竹原警察署の道路使用の許可条件や広島国道工事事務所の担当者との協議に基づき、車両に減速を促し、その安全な通行を図るために設置したものにすぎないと考えられるところ、前認定のとおり、原告ら主張の最高速度五〇キロメートルの速度規制の開始を意味する規制標識が設置されている幅員減少地点の東側にも前記のような安全速度三〇キロメートルと減速指示を表示する標識、徐行運転の規制標識、「スピード落とせ」と記載した標示板及び道路工事中の警戒標識が設置されていることを考え合わせると、右の最高速度五〇キロメートルの速度規制の開始の標識が存在するからといつて、有効な安全速度の警告がなかつたということはできない。

したがつて、右主張も採用することはできない。

(五) 原告らは、本件事故当時、被告中国建設は、本件カーブの北側の本件工事現場に大型のシヨベルカーが放置していたため対向車を発見しにくい状況にあつたとも主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、仮に原告らの主張のとおり放置されていたとしても、それだけで本件道路に瑕疵があつたということはできず、さらに、前認定のとおり本件事故現場付近ははみ出し禁止の規制がなされており、車両は対向車線にはみ出すことなく進行すべきものであるから、右シヨベルカーの放置と対向車線にはみ出したことが原因で発生した本件事故との間の相当因果関係を肯定するのは困難であり、右主張も理由がない。

(六) 原告らは、被告中国建設が竹原警察署の課した本件工事を施工するための道路使用許可の条件を遵守しておらず、広島国道工事事務所から指定されたとおりの道路標識を設置していなかつた旨主張し、前掲丙第五号証によれば、竹原警察署長は、本件事故現場付近の道路使用の許可条件として、<1>工事現場の表示を明確に行うこと、<2>工事区間を明確にするため防護柵、縄張り等を厳重に施し、夜間は赤色または黄色の灯火を一定区間に点灯させ、事故の防止に努めること、<3>危険が伴う工事である旨の看板を掲出することの条件を課していたことが認められるが、前認定の各事実に照らせば、これに違反したということはできず、また、前掲甲第四号証の三及び証人今井康善の証言によれば、被告中国建設は、広島国道工事事務所西条維持出張所の担当者と協議したうえで道路標識を設置し、その設置状況の報告もしていたことが認められ、指定されたとおりの道路標識を設置していなかつたことを認めるに足りる証拠もない。

したがつて、右主張も採用できない。

(七) 原告らは仮に、西藤車が時速八〇キロメートルの速度を出していたとしても、本件事故現場はブレーキを踏まないだけで、その程度のスピードが出る場所であるから、そのようなスピードでも回れるような緩やかなカーブにすべきであつたとも主張するが、本件道路は前認定のとおり一般国道で、法定最高速度は時速六〇キロメートルであるのであるから、工事中の迂回道路でなくても時速八〇キロメートルでも安全に回れるようなカーブにすべきであるということはできず、まして限られた敷地内に設置する工事中の迂回道路を時速八〇キロメートルの速度で安全に回れるようなカーブにすべきであるとは到底いえないから、右主張も理由がない。

(八) 以上の次第で、本件道路が道路として通常有すべき安全性を具備しておらず、その設置又は保存に瑕疵があつたということはできないから、その余の点について判断するまでもなく、被告中国建設には民法七一七条一項本文の責任がないことが明らかである。

三  被告国の責任について

本件道路の設置又は保存に瑕疵がなかつたことは前認定のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、本件道路の管理者である被告国にも、国家賠償法二条の責任がないことが明らかである。

四  被告桑原の責任について

前認定のとおり、桑原車の進行していた本件道路の西行車線に対しても本件工事及び本件カーブの存在することを表示する標示板、警戒標識等及び安全速度が時速三〇キロメートルであることを表示した標識並びにスピードを落とせと記載した標示板が設置されていたのであるから、前記のとおり、右安全速度が時速三〇キロメートルであることを表示した右標識が規制標識ではなく、被告中国建設が本件工事に際し、本件道路を通行する車両の減速を促して、その安全な通行を図るために設置したものにすぎないものであるにしても、本件道路の道路状況を十分把握している工事施工者が本件カーブを通行する場合の安全速度が時速三〇キロメートルであるとしてその旨の標識を設置しており、かつ、前認定の標識及び標示等の設置状況によれば、本件道路が前認定のようなカーブになつていることを容易に認識することができたのであるから、車両を運転する者としてはこれを尊重すべきであつたということができる。そして、前認定の本件事故の態様に、時速三〇キロメートルで走行する車両の制動距離(空走距離を含む。)は通常、一一メートル程度であるとされていることを併せ考えると、被告桑原が桑原車の速度を時速三〇キロメートルまで減速して走行していれば西藤車と衝突する前に停止できた可能性があり、仮に衝突を避け得なかつたとしても、停止した桑原車に滑走距離が長くなつてより減速した西藤車が衝突することになり、少なくとも死亡の結果が生じなかつた可能性があつたということができるところ、前認定のとおり、被告桑原は、衝突地点の手前約三四・一メートルの地点で急ブレーキ音を聞き、対向車線に異常事態が発生したことを予期し得たのに、減速措置を講じることもなく、そのまま時速約五〇キロメートル程度の速度で走行を続けていたのであるから、被告桑原には、道路状況に則した安全な速度で走行しなかつた過失及び危険を予期すべき事情があつたのに漫然と走行していた過失があつたといわざるを得ない。

したがつて、被告桑原は、民法七〇九条に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

五  被告四国高速の責任について

1  被告四国高速が桑原車の運行供用者であることは原告と被告四国高速との間において争いがなく、右事実によれば、被告四国高速は、自賠法三条に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

2  本件事故の発生またはこれによる損害の拡大について被告桑原に過失があつたことは前記のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく被告四国高速の免責の抗弁は理由がないことが明らかである。

六  損害

1  隆康の損害(逸失利益) 二八七四万一〇二二円

成立に争いのない甲第二号証及び原告義豊本人尋問の結果によれば、隆康は昭和四〇年六月一二日生まれ(本件事故当時二二歳)の独身の男子であり、本件事故当時、近畿大学工学部建築科四年生に在学中で、昭和六三年四月からは朝日住建株式会社への就職が内定していたことが認められるから、本件事故に遭わなければ、就労可能な六七歳まで四五年間稼働することができ、その間を平均すると毎年二四七万四四〇〇円(昭和六一年賃金センサス第一巻第一表産業計、企業規模計、旧大・新大卒の二〇ないし二四歳の男子労働者の平均年収額)を下らない収入を得ることができるはずであつたと推認することができ、また、同人の生活費は右収入の五〇パーセントと認めるのが相当である。そこで、右収入額を基礎に右生活費相当額及びホフマン式計算方法により年五分の割合による中間利息をそれぞれ控除して、同人の逸失利益の本件事故当時の現価を計算すると、次のとおり二八七四万一〇二二円となる。

(算式)

2,474,400円×0.5×23.2307=28,741,022円

2  権利の承継

原告義豊が隆康の父であり、原告美知子が隆康の母であることは当事者間に争いがなく、右事実に弁論の全趣旨を総合すれば、請求原因3(二)の事実を認めることができる。

3  原告らの固有の損害

(一) 慰謝料 各八〇〇万円

前記争いのない原告らと隆康との身分関係及び本件証拠上認められる諸般の事情を考慮すると、隆康の本件事故による死亡によつて、原告らが受けた精神的苦痛を慰謝するには、原告らそれぞれについて、八〇〇万円が相当であると認められる。

(二) 葬儀費用 各五〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告らは隆康の葬儀を執り行い、相応の費用を支出したことが認められるところ、本件事故と相当因果関係に立つ葬儀費用の額は原告らそれぞれについて五〇万円と認めるのが相当である。

七  過失相殺

前認定の、本件事故の態様及び本件道路の状況によれば、本件事故は、本件道路には本件工事及び本件カーブの存在を警告し、減速ないし徐行を促したり、安全速度の表示する標識及び標示等が多く設置されていたにもかかわらず、時速約八〇キロメートルもの高速度で西藤車を走行させたうえ、漫然と走行して本件カーブの存在に気付くのも遅れたという隆康の過失が主たる原因となつて発生したものというべきであるところ、高速で、対向車線に進入して対向車に衝突したという本件事故の態様に前認定の被告桑原の過失の内容を併せ考えると、前認定の損害額から九〇パーセントを減じた額をもつて被告桑原、同四国高速が賠償すべき額とするのが相当である。

八  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告らは原告訴訟代理人に本件訴訟の提起及び追行を委任し、相当額の費用及び報酬を支払い、又は支払いの約束をしていると認められるところ、本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、本件事故と相当因果関係に立つ損害として賠償を求め得る弁護士費用は、原告らそれぞれについて二三万円と認めるのが相当である。

第二反訴について

一  反訴請求原因1(事故の発生)は、当事者間に争いがない。

二  原告らの責任

本件事故の発生について、隆康に過失があつたことは前記のとおりであるから、隆康は、民法七〇九条に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償する責任があるところ、原告義豊が隆康の父、原告美智子が隆康の母であり、隆康が本件事故によつて死亡したことは前記認定のとおりであるから、原告らは、隆康の死亡に伴い、隆康の右損害賠償債務を法定相続分に従つて二分の一ずつ承継したものというべきである。

三  被告四国高速の損害

1  車両修理代 三四万四九一〇円

成立に争いのない乙第六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一号証、第二号証の一、二、第三号証及び弁論の全趣旨によれば、被告四国高速は桑原車の所有者であり、桑原車は本件事故により右前バンパー及びボディー凹損、前照灯の破損等の損傷を受け、その修理代金として、有限会社井上サービスに一万九八〇〇円(桑原車が車両損傷のため、本件事故現場からの移動が危険であつたため、事故現場において応急の修理をした。)、有限会社共立自動車商会に三二万五一一〇円、合計三四万四九一〇円を支払い、同額の損害を被つたことが認められる。

2  荷物運搬代 六万円

前掲乙第一号証、第六号証及び弁論の全趣旨によれば、本件事故当時、被告四国高速は桑原車に青果物等を積載して輸送していたのであるが、本件事故により桑原車が損傷し右積荷の輸送が不可能になつたことから、他の車両に依頼して輸送せざるを得なくなり、右代車料として三万円、積替等の人件費として三万円を要したことを認めることができる。

3  荷物弁償代 九万三〇〇〇円

本件事故当時、桑原車が青果物等を積載して輸送中であつたことは前認定のとおりであり、右事実に前掲乙第一号証、第六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第五号証の一ないし四及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件事故のために荷物の到着が遅れ、青果物の販売価格が下落したことによつて生じた損害の賠償として、訴外広島東部青果株式会社に一万九二〇〇円、訴外有限会社小川商店に二万九四〇〇円、訴外徳島市農業協同組合に一万円、訴外大俣農業協同組合に三万四四〇〇円をそれぞれ支払い、右合計額である九万三〇〇〇円の損害を被つたことを認めることができる。

4  通信費 二〇〇〇円

前認定の各事実に前掲乙第一号証、第六号証を総合すれば、被告四国高速は、本件事故の発生によつて積荷の運送依頼者及び配達先等に延着の連絡等をする必要が生じたこと、運送依頼者及び被告四国高速の住所が徳島県内であり、本件事故現場及び配達先が広島県内であつたことがそれぞれ認められ、右事実に弁論の全趣旨を総合すれば、通信費(電話代)として、二〇〇〇円を下らない額を要したものと認められる。

5  休車損害 一七万〇二三五円

前掲乙第六号証及び弁論の全趣旨によれば、被告四国高速は、桑原車が本件事故により損傷して修理せざるを得なくなつたために、本件事故日の昭和六二年一〇月二四日から同月二八日まで五日間、桑原車を運行させることができなかつたことが認められるところ、成立に争いがない乙第七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第四号証及び弁論の全趣旨によれば、被告四国高速の所有する二七台の一〇トン車の昭和六二年九月分の運賃収入の総額は四一八二万八〇〇八円であり、同じく人件費は九〇一万三四一六円、フェリー代、通行料及び通信費は一七九万七〇六〇円、ガソリン及び潤滑油代は二五二万九〇七四円、修理工賃は一六万四八一〇円、使用部品代は二一万五九五三円、タイヤ及びシート費用は五二万八九〇〇円であることが認められるので、運賃収入から人件費以下の必要経費を差し引いた、一台当たりの平均収益の日額は三万四〇四七円となる。そこで、右平均収益を基礎に本件事故によつて被告四国高速が被つた桑原車の休車による損害額を計算すると、一七万〇二三五円となる。

四  過失相殺

本件事故の発生については、被告四国高速の被用者である被告桑原にも過失があつたことは前記のとおりであるから、右過失を被害者側の過失として斟酌し、前記認定の損害額から一〇パーセントを減ずるのが相当である。

第三結論

以上の次第で、原告らの本訴請求は、被告四国高速及び同桑原に対し、各自、原告らそれぞれに対し二五一万七〇五一円及びこれに対する本件事故の発生の日である昭和六二年一〇月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、原告らの被告四国高速及び同桑原に対するその余の請求及び同中国建設及び同国に対する請求は理由がないから、これを棄却することとし、被告四国高速の原告らに対する反訴請求は、原告らそれぞれに対し、三〇万一五六五円及びこれに対する前同日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条及び九三条一項を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 笠井昇 松井英隆 永谷典雄)

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